何年か前に知人がともに暮らすことになった子犬ちゃんのことを「こわいこわいの〜ちゃん」とからかって呼んでいたことがある。確か初めての散歩の様子を話していたときだった。
箱入り娘状態だったその子犬ちゃん。初めて踏みしめる地面の感触、初めて嗅ぐ雑多な匂い、初めて出会った見知らぬ生き物達、そんなすべてのものが初めてな外の世界がこわくてこわくて一歩も歩けなくなってしまったらしい。
そのかわいく微笑ましい話に大笑いして別れて帰る道、頭のなかでは「こわいこわいの・・・」が歌みたいにぐるぐるまわってて気が付けばそれは「こわいこわいのわたし」になっていた。こわいこわいものだらけの世界で歩いているのはあの子もわたしもいっしょ。
あの子犬ちゃんはあのあと成長し「こわいこわい」ものも減っただろうか。それとも成長とともに新たな「こわいこわい」ものにも出会っているかもしれない。
わたしはあの頃と変わらず「こわいこわいのわたし」のまんま。こわいこわいものだらけで、でもそれでもなんとか歩き続けているぞ。きっとあの子もそうだろう。